2008年 01月 17日
第8回目 棚瀬純孝氏 |
第8回の法政大学・建築学科建築フォーラムでは、棚瀬純考先生に講演をして頂きました。
講演では、棚瀬先生が最近携わった海外プロジェクトの中から6作品を取り上げ、それぞれについて説明して頂きました。
■ ツォルフェラインスクール
ドイツ・エッセン市郊外に建つデザインスクールの計画です。
敷地はユネスコ世界遺産のツォルフェライン炭坑産業遺産群の端に位置し、保存地区には今もたくさんの巨大建築物が残っており、そのスケールに合わせて、大きく抽象的なほぼ立方体のヴォリュームを提案しています。
プログラムを約35m角の4つのフロアに振り分け、間仕切壁の少ないオープン空間を各階つくっています。構造はRC造で、厚さ300mmのコンクリートの外壁には直径25mmのパイプをラジエーター状に打ち込み、炭坑の地下水の地熱を利用して、コンクリート壁を保温しています。これによって、断熱材が不要になり、壁の厚さを薄くすることが可能になります。
■ トレド美術館ガラスセンター
米国・オハイオ州トレドに建つトレド美術館の分館です。
敷地周辺には古い住宅街が控えていることもあり、建物は平屋で、ヴォリュームを抑えた構成になっています。
ひとつひとつの機能は適当な位置関係が決められ、それぞれが透明のカーブガラスでくるまれ独立した1つの空間となっています。個々の部屋と部屋の間に生まれたバッファーゾーンにより、それぞれの部屋に求められる温湿度の調整や防音のためのスペースとして使われます。
■ ルーブル=ランス
北フランス、リール近郊の町、ランスの中心部にある炭坑の跡地に計画された美術館とランドスケープです。プログラムは、大きくは2つの展示スペース、ひとつは時々展示が変わる常設展示のための、もうひとつは企画展示のためのスペースです。
ヴォリュームを小さく分割して、敷地を乱すことを避け、とても大きなスケールのプログラムのスケールを小さくすることを考えています。その各棟の大きさとカーブした配置は、周りの“カバリエ”(昔の炭坑の運搬用線路の土木遺構)のスケール感とかたちを取り入れたもので、敷地の傾斜に従って流れるように連続します。敷地に対して親和力のある柔らかい建物をつくりたかったため、敷地の長く伸びた、湾曲したスケール感に合わせて、ヴォリュームにわずかなカーブを与えています。そしてファサードには、高い反射率の酸化被膜されたアルミによってつくられています。
他3作品です。
■ スタッドシアター・アルメラ
■ バレンシア近代美術館増築
■ VITRA FACTORY BUILDING
本や雑誌では知ることのできない温度や風のシミュレーションや原寸でのスタディなども見せていただき、貴重なお話をありがとうございました。
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Profile
棚瀬 純考
1995 京都工芸繊維大学大学院卒業
妹島和世建築設計事務所
2003 SANAA事務所 取締役
棚瀬純考事務所
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レポート:W-studio N.M
以下、学生提出レポートです。
SANAAの建築にみられる空間のつくられ方
05D7057 小宮山 義人
・ドイツ・エッセン デザインスクール
ユネスコ世界遺産の炭鉱跡の工場の片隅に計画されたデザインスクール。OMAがマスタープランを行っていて全体が人のためではなく工場などの機械のためにつくられている。周りの工場などのボリュームを生かし、シンプルな箱型(コンクリートのキューブ)になった。コンクリートを使用しているため重く見えてしまうのを開口によって軽くて開放的にした。また、炭鉱からでる温水を外壁に流し、断熱材をなくし外壁を通常より薄くした。
・アメリカ トレド美術館ガラスパビリオン
木が多く立ち並び、公園のように使われているので、その雰囲気を壊さないように計画された。内壁や外壁は全てガラスで、ガラスとガラスの間にバッファゾーンを設け、温度調節と防音効果を担っている。天井高4mの透明ガラスに色々と反射して不思議な空間を作り上げている。
・オランダ・アルメラ スタッドシアター
OMAがマスタープランを行っており、人工湖の上に建っている計画である。シアターとカルチャーセンターが主な機能でシアター、各種教室、サーキュレーションを含むパブリックなスペースが大小様々な部屋として等価に並べられている。音楽教室の防音設備も鉄板を使い薄くしている。
・スペイン・バレンシア バレンシア美術館増築
今の美術館は一方向しか向いていなく、展示室が少ないという状態だった。
この計画は巨大なパンチングメタルで全体を覆うことで、夏は涼しく、冬は季節風を遮り快適な空間を作り出している。そのパンチングメタルを通してバレンシアの町が見ることができる。
また、彫刻にパンチングのドットがかかってはいけないため、穴の開け方をいっぱいスタディーをした。
構造体の柱は出てくるがフレームは出てこないように設計されている。
・フランス・パリ ルーヴル美術館分館
高い反射率を持つように磨かれ酸化被膜されたアルミを外壁に使用する予定で、その外壁を微妙に曲げて配置していることにより映し出す景色も微妙に歪んだものになり、人工的なのか自然なのかあいまいなランドスケープを行った。また、常設展示のブースは時代ごとの時間を追った展示方法を考えている。
)
.講演内容について考えたこと
今回の講演でSANAAの建築がどんな意図で何を考えてつくられているかを学ぶことができました。その中で、SANAAの建築はただの流行の建築というのではなく、流行になるほどの影響力のある考えや新しい形態があり、それは意外と単純明快なものだからこそ、多くの人に受け入れられているんだということを知りました。
今回の講演で一番気になった建築はドイツのエッセンにあるデザインスクールです。この建物はSANAAが出している妹島和世+西沢立衛読本-2005に掲載されており、まっ白な模型写真がのっているのをよく知っています。しかし、新建築の2006年11月号で掲載されたときに外壁がコンクリートの打ちっぱなしでものすごい違和感を与えられました。あそこまでキューブにこだわってつくられている建築をコンクリート打ちっぱなしの外壁にしてしまうと重く見えてしまい違和感があると思っていました。しかし、今回の棚瀬さんの話であの建築はコストも削っていかなければいけなく、外壁に炭鉱から流れているお湯を流すことによって外壁の断熱部分を無くし、外壁を薄くすることができた、という話を聞いて、ただなんとなく外壁をコンクリート打ちっぱなしにしたのではなく、コストの問題や新しい試みがあるということを知ることができ、違和感なくこの建築を見ることができるようになりました。
また、棚瀬さんはSANAAの建築でボックス型、平屋根や白いものが多いのは中身を考えて建築をつくっているため、外側や色はシンプルにしていると表現していました。私はSANAAのつくる建築は、外はボックス型のシンプルなものなのに中身は多様な空間ができているというところに関心があり、その中身を考えて建築をつくるということはとても共感できました。しっかりとヒューマンスケールを考え、どんなライフスタイルでその空間は使われるのかということを考えることが建築をつくるということには非常な重要なことだと思います。
今回の講演はSANAAの建築の作られ方を学ぶと同時に、建築という物はそこを使う人々のための空間づくりであって、インパクトだけで成り立ってはいけないということを再認識することができました。建築は見た目のインパクトではなく、人のためにつくられた多彩で多様な空間でなければならないということを忘れてはいけないと思います。
『透明な先にみるもの』
05D7140 渡邉 明美
SANNAの作品はガラスやアクリルを使った表現が多くいろいろなメディアに取り上げられるが自然と引きつけられ魅了されてしまう。純粋に、気持ち良さそうと思ってしまう建築の一つである。日本にも多くの作品があるなかで今回は海外での作品を中心にお話してくださった。ツォルフェラインデザインスクールは、コンクリートの躯体に大小様々な穴を壁に開けていくことで、透明・不透明な部分をつくりだしている。また、ドイツは寒い国なのでコンクリートの躯体の外に断熱材をつけて、さらに外にもう一回コンクリートを打つのが一般的な方法である。このため外壁がかなり厚くなることから、このプロジェクトでは場所が炭坑ということもあり、その地熱を利用して壁の中に引き込んだパイプで冬には温水を、また夏には冷水を通す。年間を通して温度をほぼ一定の状態を保つことができるため断熱材をなくして外壁を薄くすることが可能となっている。
トレド美術館、ここには樹齢150年の美しい木が立ち並んでいて、そのうしろに住宅街が広がっている。この木を残しながら、かつ、まわりの住宅街に対してなるべく影響がないように、木の下に平屋で建物をつくろうという計画になっている。このまち自体には、同じガラスでもアートではなくガラス製品やガラス建材をつくる工場がいくつもあって、ガラスを安く提供してもらえるというような条件もあり、ガラスを多く使う計画をしている。また、ひとつひとつの部屋がガラスによってくるりと一筆書きで囲まれることでつくられるというアイディアであり、ひとつひとつが風船のようである。各部屋がおのおの別々にガラス壁をもつので、壁全体としては、二重レイヤーのようになる。普通アメリカだと壁厚が、たとえば数十センチと厚く、中は詰まっているが、この建物の場合、ガラスとガラスの間は空洞となっていて、空調のバッファーゾーンとして使っている。というのも、いくつかの部屋はガラスを熟によって加工するため温度が高くなります。それぞれの部屋が異なる温湿度条件を要求するといるというようなプログラムでしたので、ダブルスキンにすることで中を空調の調整ゾーンとしているわけです。
普通、動くときに見る方向と動く方向とは同じことが多いと思う。つまり視線が抜けていく方向に向かって歩くのが一般的なのだが、ここでは見る方と引っ張られていく方向とが違っている。その関係がおもしろい建物である。視線の問題に関していえば、正面にコレクションのギャラリーがあって、その先に庭があって、その向こうに不透明なボリュームがあるのだが、それらが正面にすべて並ぶのではなく、視線が斜めに抜けていくという感じになっている。不透明の壁にした場合は、基本的にこの部屋にとって展開的にみていちばんいい場所に開口部をつくつている。その場合にも隣の部屋には何も影響のないようなつくりかたを積極的にしようとしているのが感じられる。また中を動くとそれにともなって映り方が変わるので、風景が自分にずっとついてうごくような体験ができるのだろうと思った。きれいで人を引きつける空間だけでなく、その形態には様々な試行錯誤の結果であり、大胆で特別なことに挑戦しているようにもみえる彼らの作品は実は人や環境に対し当たり前のことをした結果にすぎないのではないかと感じた。また今回SANNAの作品を妹島さんでもなく西沢さんでもなく棚瀬さんの視点から、彼の言葉で聞けたことはまたSANNAの違った一面がみれたようでとても面白かった。
講演では、棚瀬先生が最近携わった海外プロジェクトの中から6作品を取り上げ、それぞれについて説明して頂きました。
■ ツォルフェラインスクール
ドイツ・エッセン市郊外に建つデザインスクールの計画です。
敷地はユネスコ世界遺産のツォルフェライン炭坑産業遺産群の端に位置し、保存地区には今もたくさんの巨大建築物が残っており、そのスケールに合わせて、大きく抽象的なほぼ立方体のヴォリュームを提案しています。
プログラムを約35m角の4つのフロアに振り分け、間仕切壁の少ないオープン空間を各階つくっています。構造はRC造で、厚さ300mmのコンクリートの外壁には直径25mmのパイプをラジエーター状に打ち込み、炭坑の地下水の地熱を利用して、コンクリート壁を保温しています。これによって、断熱材が不要になり、壁の厚さを薄くすることが可能になります。
■ トレド美術館ガラスセンター
米国・オハイオ州トレドに建つトレド美術館の分館です。
敷地周辺には古い住宅街が控えていることもあり、建物は平屋で、ヴォリュームを抑えた構成になっています。
ひとつひとつの機能は適当な位置関係が決められ、それぞれが透明のカーブガラスでくるまれ独立した1つの空間となっています。個々の部屋と部屋の間に生まれたバッファーゾーンにより、それぞれの部屋に求められる温湿度の調整や防音のためのスペースとして使われます。
■ ルーブル=ランス
北フランス、リール近郊の町、ランスの中心部にある炭坑の跡地に計画された美術館とランドスケープです。プログラムは、大きくは2つの展示スペース、ひとつは時々展示が変わる常設展示のための、もうひとつは企画展示のためのスペースです。
ヴォリュームを小さく分割して、敷地を乱すことを避け、とても大きなスケールのプログラムのスケールを小さくすることを考えています。その各棟の大きさとカーブした配置は、周りの“カバリエ”(昔の炭坑の運搬用線路の土木遺構)のスケール感とかたちを取り入れたもので、敷地の傾斜に従って流れるように連続します。敷地に対して親和力のある柔らかい建物をつくりたかったため、敷地の長く伸びた、湾曲したスケール感に合わせて、ヴォリュームにわずかなカーブを与えています。そしてファサードには、高い反射率の酸化被膜されたアルミによってつくられています。
他3作品です。
■ スタッドシアター・アルメラ
■ バレンシア近代美術館増築
■ VITRA FACTORY BUILDING
本や雑誌では知ることのできない温度や風のシミュレーションや原寸でのスタディなども見せていただき、貴重なお話をありがとうございました。
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Profile
棚瀬 純考
1995 京都工芸繊維大学大学院卒業
妹島和世建築設計事務所
2003 SANAA事務所 取締役
棚瀬純考事務所
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レポート:W-studio N.M
以下、学生提出レポートです。
SANAAの建築にみられる空間のつくられ方
05D7057 小宮山 義人
・ドイツ・エッセン デザインスクール
ユネスコ世界遺産の炭鉱跡の工場の片隅に計画されたデザインスクール。OMAがマスタープランを行っていて全体が人のためではなく工場などの機械のためにつくられている。周りの工場などのボリュームを生かし、シンプルな箱型(コンクリートのキューブ)になった。コンクリートを使用しているため重く見えてしまうのを開口によって軽くて開放的にした。また、炭鉱からでる温水を外壁に流し、断熱材をなくし外壁を通常より薄くした。
・アメリカ トレド美術館ガラスパビリオン
木が多く立ち並び、公園のように使われているので、その雰囲気を壊さないように計画された。内壁や外壁は全てガラスで、ガラスとガラスの間にバッファゾーンを設け、温度調節と防音効果を担っている。天井高4mの透明ガラスに色々と反射して不思議な空間を作り上げている。
・オランダ・アルメラ スタッドシアター
OMAがマスタープランを行っており、人工湖の上に建っている計画である。シアターとカルチャーセンターが主な機能でシアター、各種教室、サーキュレーションを含むパブリックなスペースが大小様々な部屋として等価に並べられている。音楽教室の防音設備も鉄板を使い薄くしている。
・スペイン・バレンシア バレンシア美術館増築
今の美術館は一方向しか向いていなく、展示室が少ないという状態だった。
この計画は巨大なパンチングメタルで全体を覆うことで、夏は涼しく、冬は季節風を遮り快適な空間を作り出している。そのパンチングメタルを通してバレンシアの町が見ることができる。
また、彫刻にパンチングのドットがかかってはいけないため、穴の開け方をいっぱいスタディーをした。
構造体の柱は出てくるがフレームは出てこないように設計されている。
・フランス・パリ ルーヴル美術館分館
高い反射率を持つように磨かれ酸化被膜されたアルミを外壁に使用する予定で、その外壁を微妙に曲げて配置していることにより映し出す景色も微妙に歪んだものになり、人工的なのか自然なのかあいまいなランドスケープを行った。また、常設展示のブースは時代ごとの時間を追った展示方法を考えている。
)
.講演内容について考えたこと
今回の講演でSANAAの建築がどんな意図で何を考えてつくられているかを学ぶことができました。その中で、SANAAの建築はただの流行の建築というのではなく、流行になるほどの影響力のある考えや新しい形態があり、それは意外と単純明快なものだからこそ、多くの人に受け入れられているんだということを知りました。
今回の講演で一番気になった建築はドイツのエッセンにあるデザインスクールです。この建物はSANAAが出している妹島和世+西沢立衛読本-2005に掲載されており、まっ白な模型写真がのっているのをよく知っています。しかし、新建築の2006年11月号で掲載されたときに外壁がコンクリートの打ちっぱなしでものすごい違和感を与えられました。あそこまでキューブにこだわってつくられている建築をコンクリート打ちっぱなしの外壁にしてしまうと重く見えてしまい違和感があると思っていました。しかし、今回の棚瀬さんの話であの建築はコストも削っていかなければいけなく、外壁に炭鉱から流れているお湯を流すことによって外壁の断熱部分を無くし、外壁を薄くすることができた、という話を聞いて、ただなんとなく外壁をコンクリート打ちっぱなしにしたのではなく、コストの問題や新しい試みがあるということを知ることができ、違和感なくこの建築を見ることができるようになりました。
また、棚瀬さんはSANAAの建築でボックス型、平屋根や白いものが多いのは中身を考えて建築をつくっているため、外側や色はシンプルにしていると表現していました。私はSANAAのつくる建築は、外はボックス型のシンプルなものなのに中身は多様な空間ができているというところに関心があり、その中身を考えて建築をつくるということはとても共感できました。しっかりとヒューマンスケールを考え、どんなライフスタイルでその空間は使われるのかということを考えることが建築をつくるということには非常な重要なことだと思います。
今回の講演はSANAAの建築の作られ方を学ぶと同時に、建築という物はそこを使う人々のための空間づくりであって、インパクトだけで成り立ってはいけないということを再認識することができました。建築は見た目のインパクトではなく、人のためにつくられた多彩で多様な空間でなければならないということを忘れてはいけないと思います。
『透明な先にみるもの』
05D7140 渡邉 明美
SANNAの作品はガラスやアクリルを使った表現が多くいろいろなメディアに取り上げられるが自然と引きつけられ魅了されてしまう。純粋に、気持ち良さそうと思ってしまう建築の一つである。日本にも多くの作品があるなかで今回は海外での作品を中心にお話してくださった。ツォルフェラインデザインスクールは、コンクリートの躯体に大小様々な穴を壁に開けていくことで、透明・不透明な部分をつくりだしている。また、ドイツは寒い国なのでコンクリートの躯体の外に断熱材をつけて、さらに外にもう一回コンクリートを打つのが一般的な方法である。このため外壁がかなり厚くなることから、このプロジェクトでは場所が炭坑ということもあり、その地熱を利用して壁の中に引き込んだパイプで冬には温水を、また夏には冷水を通す。年間を通して温度をほぼ一定の状態を保つことができるため断熱材をなくして外壁を薄くすることが可能となっている。
トレド美術館、ここには樹齢150年の美しい木が立ち並んでいて、そのうしろに住宅街が広がっている。この木を残しながら、かつ、まわりの住宅街に対してなるべく影響がないように、木の下に平屋で建物をつくろうという計画になっている。このまち自体には、同じガラスでもアートではなくガラス製品やガラス建材をつくる工場がいくつもあって、ガラスを安く提供してもらえるというような条件もあり、ガラスを多く使う計画をしている。また、ひとつひとつの部屋がガラスによってくるりと一筆書きで囲まれることでつくられるというアイディアであり、ひとつひとつが風船のようである。各部屋がおのおの別々にガラス壁をもつので、壁全体としては、二重レイヤーのようになる。普通アメリカだと壁厚が、たとえば数十センチと厚く、中は詰まっているが、この建物の場合、ガラスとガラスの間は空洞となっていて、空調のバッファーゾーンとして使っている。というのも、いくつかの部屋はガラスを熟によって加工するため温度が高くなります。それぞれの部屋が異なる温湿度条件を要求するといるというようなプログラムでしたので、ダブルスキンにすることで中を空調の調整ゾーンとしているわけです。
普通、動くときに見る方向と動く方向とは同じことが多いと思う。つまり視線が抜けていく方向に向かって歩くのが一般的なのだが、ここでは見る方と引っ張られていく方向とが違っている。その関係がおもしろい建物である。視線の問題に関していえば、正面にコレクションのギャラリーがあって、その先に庭があって、その向こうに不透明なボリュームがあるのだが、それらが正面にすべて並ぶのではなく、視線が斜めに抜けていくという感じになっている。不透明の壁にした場合は、基本的にこの部屋にとって展開的にみていちばんいい場所に開口部をつくつている。その場合にも隣の部屋には何も影響のないようなつくりかたを積極的にしようとしているのが感じられる。また中を動くとそれにともなって映り方が変わるので、風景が自分にずっとついてうごくような体験ができるのだろうと思った。きれいで人を引きつける空間だけでなく、その形態には様々な試行錯誤の結果であり、大胆で特別なことに挑戦しているようにもみえる彼らの作品は実は人や環境に対し当たり前のことをした結果にすぎないのではないかと感じた。また今回SANNAの作品を妹島さんでもなく西沢さんでもなく棚瀬さんの視点から、彼の言葉で聞けたことはまたSANNAの違った一面がみれたようでとても面白かった。
by a-forum-hosei
| 2008-01-17 00:34
| 2007