2006年 11月 26日
第六回講義 石黒由紀さん |
第6回の講義は、石黒由紀さんでした。

テーマは「建築と風景」ということで、作品として「隅のトンガリ」や「あざみ野の一戸建」、「調布のアパートメント」「玉川台2丁目」について説明していただきました。
「建築と風景」というテーマに対して、敷地と建築の関係においても説明していただきました。
『隅のトンガリ』

交差点の角に敷地があり、横断歩道の幅ほどの非常に小さな土地です。周りが病院やマンションなど規模の大きな建物が建ち並ぶなかの角地に、その小さな住宅はあります。
そのような大きな建物に対して小さな住宅がつり合うために、”強くて、とんがったもの”をボリュームとしてつくったそうです。
また石黒さんはよく地域のボリュームをみるために1/200の敷地模型をよくつくるそうです。
1階は貸しギャラリー、2・3階がSOHO(2階が主な仕事場、3階が主な生活の場)という空間構成になっています。一階のギャラリーについて敷地は狭いながらも壁の下部をガラスにすることで視覚的に外へ延長され、展示空間は壁上部に確保されています。また1階から3階の床まで貫かれた大黒柱が構造的にも視覚的にもこの空間を特徴づけています。開口の仕方も各階で異なり、1階は下部の開口、2階は3面開口、3階のとんがった部分は南面一面でおおきくとっています。敷地境界の部分に関しても、隣地の階段に並べて階段を設けて空間をつくるなどの工夫もありました。この作品では内部空間と外部(周辺敷地)の空間の構成がうまくつなげられていると思いました。
『あざみ野の一戸建』

この敷地も、起伏のある土地の頂きにあります。白いボックスが3段にずらして積まれています。各階に大きく開口がとられ、各階のずれた部分はテラスになっています。一階は車庫が入り、それに面する計3カ所の出入口によってそこに流動的な動線がつくられています。
敷地として立地的に目立つ場所な上に、段状のボックスがとても印象づけられた作品でした。
『調布のアパートメント』

この集合住宅は、従来のアパー戸の問題である採光、通風などに対して全方向性をもった集合住宅で、また住人の生活のバリエーションにあわせるように各住戸の空間も多様になっています。
1階はピロティで駐車場になっており、各住戸へのアプローチが設けられています。敷地が郊外で中途半端で殺風景な場所にあることから建築も同じように密度や高さなどはそろえつつも、敷地内では棟間は壁面同志に角度をつけ相互の視線をずらすことでプライバシーを確保するなど、空間としての秩序はつくられています。2.3階の住戸でも、全方向性といった居住空間としての基本的な性能を同等にしつつ、壁や床で色や素材をかえたりして、多様な生活空間をつくっています。
『玉川台2丁目』

4つの建築家による建売住宅です。みかんぐみ、石黒由紀建築設計事務所、
納谷建築設計事務所、若松均建築設計事務所によってつくられました。共通の条件として決めたことは、近所の半永久的に残る樹木を見えるようにする、各建物間の塀は設けず、4つの各面でそれを構成しようということでした。それぞれの建築家がそれぞれの外側の擁壁のデザインをおこない、石黒さんはそれを奥まで引き込む方法をとりました。そしてその奥にサンクンガーデンを設け、視覚的にも奥にいくようにしました。
石黒由紀さんのこれらの作品をみて、“建築と風景”というテーマで、周囲の敷地の読み込みと、その周囲と関係性が建築内部の構成の仕方にとても巧みにつくられていると感じました。
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石黒由紀(いしぐろ・ゆき)
1968年 東京都生まれ
1990年 日本女子大学家政学部住居学科卒業
1990〜93年 東京工業大学工学部建築学科研究生
1993〜96年 石田敏明建築設計事務所
1996年 石黒由紀建築設計事務所設立
現在,武蔵野美大、法政大、横浜国大にて非常勤講師
主な受賞歴
1994年に『計画O』にてSD賞を受賞 (田堀繁と共同設計)
2003年に『隅のトンガリ』にて東京建築士会住宅建築賞金賞を受賞
2004年に『あざみ野の一戸建』にて東京建築士会住宅建築賞を受賞
2005年に『調布アパートメント』にて東京建築士会住宅建築賞、
東京都事務所協会東京建築賞優秀賞
(共同住宅部門) JIA新人賞を受賞
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ここからは学生のレポートを載せます。
『調和と配慮』 04d7031 川田 佳苗
今回石黒先生に「建築と風景」と言う題でお話をしていただいた。そのなかで石黒先生は、建物は「いかんともせず目に入ってくる」「なじんでくると見えてこなくなる視覚的なもの」とおっしゃっていた。本当に建物とは石黒先生のおっしゃるとおりであると思う。自分の生活している周辺、または久しぶりに行った場所に新しい建物が建っていれば誰でも気がつく。そしていろいろな批評をする。しかししばらくするとその建物がその場にあることが当たり前になり、風景の一部となってしまう。建築と風景とはまさに切っても切れない関係なのである。
しかしながら建築というのは一度建てたら簡単に取り壊しをしたり作り直したりができるものではない。さらに一度試作品を作ってみると言うのもむずかしい話である。建築とは大量生産するものではなくひとつひとつが違った風景の中にあるからこそ個性があっておもしろいのである。だからこそ模型を作るのである。石黒先生は1/200でA0くらいの敷地模型を作って地域のボリュームを切り出す、とおっしゃっていた。わたしは初めて「隅のトンガリ」を見たとき、用途とそれ自体の見た目を考えてあのかたちになったのかと考えていた。しかし今回先生のお話を聞いて、それ自体の見た目というよりむしろまわりの大きな建物の中でどう存在するか、駅から来たときにどう見えるかを考えてあのかたちになったのだとわかった。石黒先生が敷地模型を大切にする理由がわかった。
もうひとつわたしが石黒先生の話を聞いて感じたのは、配慮が細かいと言うこと。先生は設計の際に構造のことや設備のこと、使い勝手のことも深く考えているようであった。たとえば「調布のアパートメント」である。キッチンの写真を見たが、わたしはこの写真を見て「女性らしい」と感じた。冷蔵庫も洗濯機もエアコンまでもが壁を凹ませて配置されていて見た目は凹凸もなくスッキリとしている。しかしキッチンに洗濯機があるなど家事の大半がこの場でできると言う点である。見た目もきれいだが使い勝手も良くないといけないと思った。「あざみ野の一戸建て」もまたそうであった。キッチンのカウンターは広くて正面には窓があり見た目にもキレイであるが、カウンターの下にレンジや収納があり換気扇も強力なものを付けにおいが流れにくくなるような配慮がしてあった。使ってみたいと思うキッチンであった。
今回石黒先生の話を聞いて、建物はただそれ自体のデザインを考えて作るのでいけないと言うことを強く感じた。周辺の建物や地形との関係、また構造や設備も考慮した上でデザインすることが人々に使ってもらえる建物をたてるコツだと思った。
『場からできる建築』 04d7038 久保田 亘
今回の講演で、テーマである「建築と風景」の関係について考えた。風景という言葉はこれまで建築フォーラムで講演して頂いた方々からもよく出てくる言葉であって、そのたびに風景について考えるが、石黒さんの考え方は外部から内部にかけて風景を考えるという考え方で、与えられた敷地に建築物をつくる際、周りの環境、周りの建築の規模からどう考えるか。これは石黒さんが建築をつくるとき必ず敷地模型から考えるということからもわかるように一番重点を置いていることなのではないかと思う。石黒さんの建築に奇抜さはないが、街に溶け込みつつ、ちょっとした変化を加えることで存在感がある。街に溶け込むだけ、または奇抜なだけの建築をつくることはあまり難しいことではないが、それを共存させることはとても難しいことである。だからこそ石黒さんの建築はその場に建てるから生きてくる建築であるのだと思う。
また、今回石黒さんの建築観を聞いていて印象に残った言葉があった。「建築はアートほど遠くなく、文学ほど意味だけではない」という言葉である。単純な言葉だが、よく考えると難しい言葉であった.「建築は芸術だ」という人がいる。しかし、全てに意味がないとアートとしての建築自体に、意味がなく弱いものになってしまう。こう考えると全然意味が分からなくなってしまったが、石黒さんの建築を見ていて少し分かった気がした。建築は周りの環境があって、その環境と合わさって初めてアートになる。また外部から内部にかけて風景を考えるから建築の細部にまで意味が出てくる。この言葉が建築という物になるとき石黒さんの建築が出来上がるのではないだろうか。
良い建築をつくるには良い建築を見る経験はもちろん必要だと思う。しかしそれだけでは不十分で、ほんとに様々なものを見ることが必要なのではないかと思った。
『開口が風景を作る』 04d7062 鈴木梨恵
今回は女性建築家である石黒由紀さんの話を聞けるということで少しばかし楽しみだなという心持ちでいた。どんな作品であるとかどんなことをしているとかまったく知らないで聞いたのだが印象としてなんて箱箱しい建築なのだと思ってしまった。失礼ながら、1年生のときの設計製図での5メートル立方の中に提案する課題を思い出してしまったほどだ。
そんな思いのまま聞いていたのだが、さすが建築家。ただの箱で終わっているわけがなかった。いわゆる建築家から受けるものとは違った、なんだか身近に感じられるような不思議な気持ちになった。
今回のテーマ、建築と風景。この建築フォーラムを通して風景とか景観とかいろんな先生方にお話を聞く機会があったのだが、石黒さんの話の中で『開口のとり方』についての話が興味深かった。
5メートル立方の自己空間においてはじめて設計の練習なるものを経験したわたしにとって開口のとり方がこんなにもやっかいだなんて思ったことがなかった。そして、開口が大きくなったり小さくなったりすることで景色は変化するし、光が入ってくる量も違うのだと初めて学んだのもこのときであった。
『開口のとり方』についてはそれぞれの作品において、平面図や写真を使って丁寧に説明していただけた。すごく当たり前のようにさらさらと各開口がどうしてこうなのか等を説明されていたが、もし自分が作品やらを見てその形や配置だけを参考に同じことをやろうとしたら間違いなく良さはでてこないであろうと思う。そこがすごいなとさすがなのだと勝手に感心してしまった。じゃあ、自分で開口をあけようとするときどうしたらうまく解決するのか。ここで風景がなくてはならない。本や雑誌から、また実際の建物からいいなと思う開口には必ずそこにしかない風景があってその上でそのための開口が開いている。このことを考えずに開いている開口は心のない開口になってしまう。もちろん、すべての建築にこんな仕組みがとられているかといえばそうではないのかもしれない。しかし、このことが建築を何倍にも素敵にするならば忘れてはならないと思う。
そして、石黒さんの説明にてひとつひとつを丁寧に、そして大事にしているなという感じを受けた。ここはなんでこうなっているんだろうという話を聞いているうちにうまれる疑問に対して順番に解決されていく感じがして何度もなるほどと思っていた。シンプルな中にちょっとした魔法をかけたようなデザインが入って、そこにしかない風景をいかして、そしてうまれた建物たちはどれも一度行ってみたいなと思わせてくれた。
一見、模型のようなでありながらちゃんと成り立っている。今後の作品がとても楽しみである。

テーマは「建築と風景」ということで、作品として「隅のトンガリ」や「あざみ野の一戸建」、「調布のアパートメント」「玉川台2丁目」について説明していただきました。
「建築と風景」というテーマに対して、敷地と建築の関係においても説明していただきました。
『隅のトンガリ』

交差点の角に敷地があり、横断歩道の幅ほどの非常に小さな土地です。周りが病院やマンションなど規模の大きな建物が建ち並ぶなかの角地に、その小さな住宅はあります。
そのような大きな建物に対して小さな住宅がつり合うために、”強くて、とんがったもの”をボリュームとしてつくったそうです。
また石黒さんはよく地域のボリュームをみるために1/200の敷地模型をよくつくるそうです。
1階は貸しギャラリー、2・3階がSOHO(2階が主な仕事場、3階が主な生活の場)という空間構成になっています。一階のギャラリーについて敷地は狭いながらも壁の下部をガラスにすることで視覚的に外へ延長され、展示空間は壁上部に確保されています。また1階から3階の床まで貫かれた大黒柱が構造的にも視覚的にもこの空間を特徴づけています。開口の仕方も各階で異なり、1階は下部の開口、2階は3面開口、3階のとんがった部分は南面一面でおおきくとっています。敷地境界の部分に関しても、隣地の階段に並べて階段を設けて空間をつくるなどの工夫もありました。この作品では内部空間と外部(周辺敷地)の空間の構成がうまくつなげられていると思いました。
『あざみ野の一戸建』

この敷地も、起伏のある土地の頂きにあります。白いボックスが3段にずらして積まれています。各階に大きく開口がとられ、各階のずれた部分はテラスになっています。一階は車庫が入り、それに面する計3カ所の出入口によってそこに流動的な動線がつくられています。
敷地として立地的に目立つ場所な上に、段状のボックスがとても印象づけられた作品でした。
『調布のアパートメント』

この集合住宅は、従来のアパー戸の問題である採光、通風などに対して全方向性をもった集合住宅で、また住人の生活のバリエーションにあわせるように各住戸の空間も多様になっています。
1階はピロティで駐車場になっており、各住戸へのアプローチが設けられています。敷地が郊外で中途半端で殺風景な場所にあることから建築も同じように密度や高さなどはそろえつつも、敷地内では棟間は壁面同志に角度をつけ相互の視線をずらすことでプライバシーを確保するなど、空間としての秩序はつくられています。2.3階の住戸でも、全方向性といった居住空間としての基本的な性能を同等にしつつ、壁や床で色や素材をかえたりして、多様な生活空間をつくっています。
『玉川台2丁目』

4つの建築家による建売住宅です。みかんぐみ、石黒由紀建築設計事務所、
納谷建築設計事務所、若松均建築設計事務所によってつくられました。共通の条件として決めたことは、近所の半永久的に残る樹木を見えるようにする、各建物間の塀は設けず、4つの各面でそれを構成しようということでした。それぞれの建築家がそれぞれの外側の擁壁のデザインをおこない、石黒さんはそれを奥まで引き込む方法をとりました。そしてその奥にサンクンガーデンを設け、視覚的にも奥にいくようにしました。
石黒由紀さんのこれらの作品をみて、“建築と風景”というテーマで、周囲の敷地の読み込みと、その周囲と関係性が建築内部の構成の仕方にとても巧みにつくられていると感じました。
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石黒由紀(いしぐろ・ゆき)
1968年 東京都生まれ
1990年 日本女子大学家政学部住居学科卒業
1990〜93年 東京工業大学工学部建築学科研究生
1993〜96年 石田敏明建築設計事務所
1996年 石黒由紀建築設計事務所設立
現在,武蔵野美大、法政大、横浜国大にて非常勤講師
主な受賞歴
1994年に『計画O』にてSD賞を受賞 (田堀繁と共同設計)
2003年に『隅のトンガリ』にて東京建築士会住宅建築賞金賞を受賞
2004年に『あざみ野の一戸建』にて東京建築士会住宅建築賞を受賞
2005年に『調布アパートメント』にて東京建築士会住宅建築賞、
東京都事務所協会東京建築賞優秀賞
(共同住宅部門) JIA新人賞を受賞
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ここからは学生のレポートを載せます。
『調和と配慮』 04d7031 川田 佳苗
今回石黒先生に「建築と風景」と言う題でお話をしていただいた。そのなかで石黒先生は、建物は「いかんともせず目に入ってくる」「なじんでくると見えてこなくなる視覚的なもの」とおっしゃっていた。本当に建物とは石黒先生のおっしゃるとおりであると思う。自分の生活している周辺、または久しぶりに行った場所に新しい建物が建っていれば誰でも気がつく。そしていろいろな批評をする。しかししばらくするとその建物がその場にあることが当たり前になり、風景の一部となってしまう。建築と風景とはまさに切っても切れない関係なのである。
しかしながら建築というのは一度建てたら簡単に取り壊しをしたり作り直したりができるものではない。さらに一度試作品を作ってみると言うのもむずかしい話である。建築とは大量生産するものではなくひとつひとつが違った風景の中にあるからこそ個性があっておもしろいのである。だからこそ模型を作るのである。石黒先生は1/200でA0くらいの敷地模型を作って地域のボリュームを切り出す、とおっしゃっていた。わたしは初めて「隅のトンガリ」を見たとき、用途とそれ自体の見た目を考えてあのかたちになったのかと考えていた。しかし今回先生のお話を聞いて、それ自体の見た目というよりむしろまわりの大きな建物の中でどう存在するか、駅から来たときにどう見えるかを考えてあのかたちになったのだとわかった。石黒先生が敷地模型を大切にする理由がわかった。
もうひとつわたしが石黒先生の話を聞いて感じたのは、配慮が細かいと言うこと。先生は設計の際に構造のことや設備のこと、使い勝手のことも深く考えているようであった。たとえば「調布のアパートメント」である。キッチンの写真を見たが、わたしはこの写真を見て「女性らしい」と感じた。冷蔵庫も洗濯機もエアコンまでもが壁を凹ませて配置されていて見た目は凹凸もなくスッキリとしている。しかしキッチンに洗濯機があるなど家事の大半がこの場でできると言う点である。見た目もきれいだが使い勝手も良くないといけないと思った。「あざみ野の一戸建て」もまたそうであった。キッチンのカウンターは広くて正面には窓があり見た目にもキレイであるが、カウンターの下にレンジや収納があり換気扇も強力なものを付けにおいが流れにくくなるような配慮がしてあった。使ってみたいと思うキッチンであった。
今回石黒先生の話を聞いて、建物はただそれ自体のデザインを考えて作るのでいけないと言うことを強く感じた。周辺の建物や地形との関係、また構造や設備も考慮した上でデザインすることが人々に使ってもらえる建物をたてるコツだと思った。
『場からできる建築』 04d7038 久保田 亘
今回の講演で、テーマである「建築と風景」の関係について考えた。風景という言葉はこれまで建築フォーラムで講演して頂いた方々からもよく出てくる言葉であって、そのたびに風景について考えるが、石黒さんの考え方は外部から内部にかけて風景を考えるという考え方で、与えられた敷地に建築物をつくる際、周りの環境、周りの建築の規模からどう考えるか。これは石黒さんが建築をつくるとき必ず敷地模型から考えるということからもわかるように一番重点を置いていることなのではないかと思う。石黒さんの建築に奇抜さはないが、街に溶け込みつつ、ちょっとした変化を加えることで存在感がある。街に溶け込むだけ、または奇抜なだけの建築をつくることはあまり難しいことではないが、それを共存させることはとても難しいことである。だからこそ石黒さんの建築はその場に建てるから生きてくる建築であるのだと思う。
また、今回石黒さんの建築観を聞いていて印象に残った言葉があった。「建築はアートほど遠くなく、文学ほど意味だけではない」という言葉である。単純な言葉だが、よく考えると難しい言葉であった.「建築は芸術だ」という人がいる。しかし、全てに意味がないとアートとしての建築自体に、意味がなく弱いものになってしまう。こう考えると全然意味が分からなくなってしまったが、石黒さんの建築を見ていて少し分かった気がした。建築は周りの環境があって、その環境と合わさって初めてアートになる。また外部から内部にかけて風景を考えるから建築の細部にまで意味が出てくる。この言葉が建築という物になるとき石黒さんの建築が出来上がるのではないだろうか。
良い建築をつくるには良い建築を見る経験はもちろん必要だと思う。しかしそれだけでは不十分で、ほんとに様々なものを見ることが必要なのではないかと思った。
『開口が風景を作る』 04d7062 鈴木梨恵
今回は女性建築家である石黒由紀さんの話を聞けるということで少しばかし楽しみだなという心持ちでいた。どんな作品であるとかどんなことをしているとかまったく知らないで聞いたのだが印象としてなんて箱箱しい建築なのだと思ってしまった。失礼ながら、1年生のときの設計製図での5メートル立方の中に提案する課題を思い出してしまったほどだ。
そんな思いのまま聞いていたのだが、さすが建築家。ただの箱で終わっているわけがなかった。いわゆる建築家から受けるものとは違った、なんだか身近に感じられるような不思議な気持ちになった。
今回のテーマ、建築と風景。この建築フォーラムを通して風景とか景観とかいろんな先生方にお話を聞く機会があったのだが、石黒さんの話の中で『開口のとり方』についての話が興味深かった。
5メートル立方の自己空間においてはじめて設計の練習なるものを経験したわたしにとって開口のとり方がこんなにもやっかいだなんて思ったことがなかった。そして、開口が大きくなったり小さくなったりすることで景色は変化するし、光が入ってくる量も違うのだと初めて学んだのもこのときであった。
『開口のとり方』についてはそれぞれの作品において、平面図や写真を使って丁寧に説明していただけた。すごく当たり前のようにさらさらと各開口がどうしてこうなのか等を説明されていたが、もし自分が作品やらを見てその形や配置だけを参考に同じことをやろうとしたら間違いなく良さはでてこないであろうと思う。そこがすごいなとさすがなのだと勝手に感心してしまった。じゃあ、自分で開口をあけようとするときどうしたらうまく解決するのか。ここで風景がなくてはならない。本や雑誌から、また実際の建物からいいなと思う開口には必ずそこにしかない風景があってその上でそのための開口が開いている。このことを考えずに開いている開口は心のない開口になってしまう。もちろん、すべての建築にこんな仕組みがとられているかといえばそうではないのかもしれない。しかし、このことが建築を何倍にも素敵にするならば忘れてはならないと思う。
そして、石黒さんの説明にてひとつひとつを丁寧に、そして大事にしているなという感じを受けた。ここはなんでこうなっているんだろうという話を聞いているうちにうまれる疑問に対して順番に解決されていく感じがして何度もなるほどと思っていた。シンプルな中にちょっとした魔法をかけたようなデザインが入って、そこにしかない風景をいかして、そしてうまれた建物たちはどれも一度行ってみたいなと思わせてくれた。
一見、模型のようなでありながらちゃんと成り立っている。今後の作品がとても楽しみである。
by a-forum-hosei
| 2006-11-26 23:27
| 2006