2006年 10月 20日
【第三回】渡辺真理教授講演 |
テーマ「環境という建築問題」

第三回目となる法政大学建築学科 建築フォーラムは渡辺真理教授に講演していただきました。
講義の流れとしては、テーマである「環境」というキーワードから、前半は20世紀前半に世界の技術的な進歩に貢献したいくつかの出来事と、その技術が20世紀末ころにひとつの到達点を向かえ、新たな問題が発生した、という事実を踏まえ、建築が環境を考える上で、媒体として建築を考えていくという渡辺先生の話をきっかけに、後半は、そのようなテーマに沿ったこれまで渡辺先生が関わられた4つのプロジェクトの話をしていく、というものでした。
冒頭、世界的な技術進歩の出来事として、渡辺先生がいくつか取り上げた出来事とは、次のようなものです。
1930年にライト兄弟が世界で初めて飛行機を作り、その約40年後の1969年には超音速旅客機コンコルドが開発され、音速を超える世界を人類は体験することになりました。しかし、2000年の事故をきっかけにコンコルドは、空を飛ぶことはなくなりました。
1930年に当時世界で一番高層のビルであるクライスラービルディングが建ち、ひとつの到達点が見られました。しかし、9.11事件という痛ましい出来事が起こります。この事件は超高層ビルの役目の一つのピリオドとなりました。
1937年にはアメリカにフーバー・ダムという巨大ダムが建設され、都市の発展に大いに貢献したが、現代においてはもう強大なダムは建設することが事実上不可能でしょう。
など
世界でも有数の巨大建造物をどんどんつくることができたが、20世紀末から21世紀初頭にかけて一つの到達点を迎え、新たな問題に直面しています。建築も然りで、現代は環境という問題を考えなければならない時期になっている、ということを世界のビッグな歴史的事件のいくつかを取り上げることを通して講義して下さりました。
次に、「環境」というテーマにより選ばれた4つのプロジェクトを用いて講義していただきました。
●“RL”-Recycle Landscape- 千葉県あすみが丘 2002年

このプロジェクトは法政大学渡辺研究室が、2002年に首都圏の複数の建築系の大学生が集まるアートユニバーシアードに参加して行われたものです。
プロジェクトのテーマはリサイクルで、あすみが丘のプロジェクトでは、家庭から排出されるゴミをリサイクルした「その後」を見えるようにすることで、住民にリサイクル・そして環境問題を考えさせるような狙いがありました。そこで具体的に製作したものは、ペットボトルのという資源を活かし、あすみが丘の世帯数と同じ651本のペットボトルの風車で公園を埋め尽くし、子供の遊び場としました。

もうひとつ行ったことは、あすみが丘から一日に捨てられる3800本という量のペットボトルを数珠繋ぎにして束ねたボックスをつくることで、リサイクルを可視化し、認識させることを狙ったそうです。
どちらの製作物も最終的には住民に受け入れられ、渡辺先生のおっしゃるように建築(ここでは建築のエレメントなものだが)が「媒体」として利用された一成功例ではないでしょうか。
このようなプロジェクトを通して、建築が媒体として環境問題を考える契機につながることに関係する、一つの例解であるように思えました。
●“HK”-兵庫県播磨総合庁舎- 2002年

電子系の精密技術研究所がある兵庫県播磨市の山合いにある公共建築のプロジェクトです。敷地の周辺はかつて豊かな緑があったのですがが、技術研究所の開発などによって多くの木々が伐採され、環境破壊という問題がありました。そこで、市はもう一度木を植えて、将来また緑の森を復活させよう、という運動が起こりました。
“HK”は、そんな時期・場所性の中で計画されたもので、環境問題をクリアするという「ポリティカル・コレクトネス」が求められる建物でした。ここでの具体的なポリティカル・コレクトネスとは、地球全体の環境を悪化させる汚染物質の指数を、規定の時期に規定の量だけ減らさなければならない、というものであり、簡単に言うと石油を使わないで省エネを考えなさい、というものです。
そこでとられた建築的操作として、建物を低くして屋根の面積を大きくし、その屋根の全面にPVパネル(太陽光発電パネル)を取り付ける、というものでした。このPVパネルの最大の特徴は一日あたり500kwの発電量を持ち、これで全館の電気をまかなえるというものです。このような施設は日本でも有数の施設であり、そういった意味では究極の省エネであるといえるでしょう。
また、建物の内装や外装のルーバーなどに間伐材を束ねて建材とした編成材を用いました。間伐材とは、より大きな木を育てるために木に多くの光を当てなければならないが、それを遮っているために伐採される木のことであり、安価で環境的にも配慮したものです。内装に関しては、なるべく木を用いて構成されました。

プランは一階に比較的オープンなオフィス、二階に比較的人があまり来ないオフィスにし、中央のコンコースの両脇にそういった機能が入っています。
●札幌の住宅

夫婦と子供のための住宅として、冬に厳しい土地に「自然と建築をどうフィットさせるか」というテーマのもと進行したプロジェクトです。
外壁は、冬に厳しい寒さに耐える為に外側断熱をし、住宅の三方をほぼ囲んで、景色の良い一面だけを開放し、開放した面は冬はサンルーム、夏は開放すれば風が通りぬける気持ちのよい吹き抜け空間となります。冬の屋根の雪見用トップライトから階段、そしてサンルームまで風の通り道となっており、夏は住宅全体を風が通り抜けるし、冬はサンルームに設えられた床下ヒーティングによって暖房の効率を上げています。


また、視線の操作も住宅の形態に影響を及ぼし、リビングから二階の子供部屋の様子が見えたりするなど、風の通り道と視線の操作がリンクして建築が構成されているように思えました。
●“TR”-月影小学校再生計画- 新潟県旧浦川原村2001年~

最後に、広い意味での環境、ということから現在渡辺研究室が行っているプロジェクトを講義していただきました。
月影小学校が2001年に廃校し、地域の核としての施設を失ったことで、交流のできる建物が求めらました。そこで、法政大学を始めとする、首都圏四大学の建築系学生が数回にわたるワークショップによって、浦川原には何が必要か研究を調査を重ねて、最終的に地元との交流が図れるような宿泊施設をつくるということになり、2004年に着工、2005年に竣工し運営が開始されたものです。


渡辺先生は、設計の先生としてはよく我々と接しているけれども、設計者としてどのようなことを考えてデザインされているのか、今回のフォーラムでその一部でも聞くことができたのはよい機会だったと思います。
DATE : 2006年10月16日
レポート・写真撮影 W-studio T・A
写真提供 渡辺教授
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渡辺真理 (わたなべ まこと )
1950年 群馬県前橋市に生まれる
1973年 京都大学卒業
1977年 京都大学大学院修了
1979年 ハーバード大学デザイン学部大学院修了
1981年 磯崎新アトリエに勤務 ロサンジェルス現代美術館, ブルックリン美術館などを担当
1987年 設計組織ADHを設立
現在 設計組織ADH代表 /法政大学工学部建築学科教授
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以下、学生の授業レポートを載せます。
「自分のテーマ」 04D7019 円城寺 香菜
渡辺先生の講演は「環境を建築から考える」というテーマだった。しかし今回の講演を聴いて私が一番印象に残ったのは、「自分のテーマを持つ」ということである。
質疑応答のときに、環境を忘れて設計することはありえないが環境を考えたからといって必ず良い建築になるというわけではない、と渡辺先生はおっしゃっていた。『環境』は設計をする上での必要条件であるとおっしゃっていた。単に環境に良い建物というところで終わらせるのではなく、さらにその先に何か自分なりのテーマを持って設計しなければ良いものはできないということかなと私はとらえた。考えてみればそれは当たり前のことかもしれない。環境に良い建物を設計するのは、例えば建物が倒れないように構造を考えるのと同じようなもので、それを考えたから良い設計だというよりは当然考えていなければいけないことなのだろう。まずそれが基礎にありその上に自分のテーマをプラスして、それから具体例を考え面白い建築を作るのだろう。「テーマを持つ」ということは今までも様々な先生に再三言われてきたことだ。設計製図での作品にも必ず題名を付けるし、このフォーラムのレポートのように作文形式のレポートにも必ずタイトルを付ける。題名でその作品や文の印象が決まったり周りの人が興味を持ってくれるかどうかが決まったりする。がしかし、それ以前に芯となるテーマをしっかりと決めていないと自分が何をしたいかわからなくなり中途半端なことしかできなくなってしまうだろう。それどころか考えることすら嫌になってしまうかもしれない。設計者自身がしっかりとテーマを持たず何をしたいかよくわからない状態で設計したものが、周りの人に良いと思ってもらえるわけがないし何も伝わらない。まず自分なりのテーマを持つこと、それは自分自身の考えを整理することにもつながるし、その先自分が突っ走っていくための芯になる。
今回の講演で「月影の郷」の話を聴いていて、私も最初の交流センターの提案は良いと思った。村民の人に提案してみると猛烈に反対されたときいて驚いた。反対されるというのは恐らくこれが製図の課題だったら気づかないことで、実際に村民の人と話し合ったからこそ気づきそして新しい提案が出来たのだと思う。ここで大切なのは「廃校になった小学校を再生することで村のコミュニティーを復活させよう」というしっかりとしたテーマがあったことだ。「月影の郷」のワークショップの様子や実際に作っている様子などを見ていてみんながとても熱心に楽しそうに見えたのは、芯となるテーマが明確にあったからだと思った。
建築の面白いところは、設計者が決めたテーマでその後設計者以外のたくさんの人たちが関わりながら作品をつくりあげていくところだと私は思う。芸術作品は自分が思った通りに自分がやりたいように一方通行でつくりあげることが多いだろう。けれど建築は違う。前に述べたように設計者がテーマを持つことは大切だが、そのテーマを基にまるで会議を開いているかのように様々な人が意見を出し、また色々なことを調査した結果なども参考にしながら設計が進んでいく。自分の思い通りにはいかない。問題点がたくさん出てくる。しかし、最初に自分が考えたテーマを基に様々な意見が出て自分の力だけでは思いつかなかったアイディアが生まれてくる。案はどんどん進化する。それは自分にとっても周りにとってもワクワクすることだと思う。そのためにはやはり芯となるテーマが必要で、これがなければ始まらない。常に設計の始めに「自分のテーマを持つ」こと、魅力ある建築を作るためにはまず欠かせないことだ。きっと設計するワクワクは、テーマが決まってそこから始まる。
「環境をクリアする建築」 04D7102 藤本 景子
『環境と建築』との関係は常に一対となっているように感じる。今でいう『環境』は、ごみ問題や、エネルギー軽減のような言葉に結びつくことが多いが、まわりの状況全てに関係することである。建築を考える上でも、『環境』はひとつの課題であり、幅広い分野である。今回、渡辺先生のお話から興味を持ったのは、『環境=再生』もひとつの考え方であるということだ。
その例に挙げられたのが、新潟県浦川原村月影小学校の再生である。このプロジェクトは、2001年に閉校となった小学校を宿泊体験交流施設として再生させるという、4大学の学生も加わった共同研究プロジェクトである。私が面白いと思ったのは、計画から設計、施工、運営まで学生によるサポートがある点である。『セルフビルド』のように、学生の手で仕上げていく丁寧な作業は、まさしく『環境』にやさしいものだと思った。
ルーバーで覆われた施設は、夏は取り外すことで涼しく、冬は多く取り付けることであたたかくする。ルーバーから見える景色も変わり、違う表情をつける。また、フロア一つ一つもデザイン性があって、人にも自然にもあたたかいものを感じさせるものであった。全体的に『環境』を考えたすばらしいプロジェクトだと思った。
このような計画性も、まずは、『まわりの環境』から考えられているものである。何か新しいものを生み出すとき、単体で考えずに、複合的に見なければならない。周りの意見(この場合地域に住む人々の意見)というのも重要で、月影の再生プロジェクトでも地域の社会性や自然環境を大切に扱っていた。それは、『常に考えながら、常に進化しつづけること』という計画のテーマに沿ったものであった。
『月影』という素敵な名前を持つこの村の歴史がこれからもずっと続いていけばいいと思う。続かせるためには、今回参加した学生だけでなく、新しい(他大の)学生や、地域の人々がどんどん引き継いでいくことが大切になっていくだろう。新潟県に訪れたらぜひ宿泊してみたいと思った。このプロジェクトに参加しても面白いと思った。
建築を再生するということは、都市を再生することに繋がっていくことだと思う。歴史あるものに新しいものを追加させるだけでなく、既存のものに敬意を払いながら挿入させる。その場所に人が集まることで交流の場が生まれ、地域を活性化させる。このようにしながら都市をさらに良く引き立たせることが出来たとき、計画ははじめて成功するのではないか、環境という点をクリアできるのではないか、と思う。
今回のフォーラムで学んだことは、『環境を広い視野で見る』ということである。様々な環境問題をクリアすることが出来ればいいのだが、難なくクリアすることは容易ではない。その考え方は、今後の建物をつくっていく上で必須であり、難題である計画性に関連性をもたらす。私も、建築そのものや都市について考えるときには、様々な面での『環境』を念頭におきながら計画していきたいと思った。

第三回目となる法政大学建築学科 建築フォーラムは渡辺真理教授に講演していただきました。
講義の流れとしては、テーマである「環境」というキーワードから、前半は20世紀前半に世界の技術的な進歩に貢献したいくつかの出来事と、その技術が20世紀末ころにひとつの到達点を向かえ、新たな問題が発生した、という事実を踏まえ、建築が環境を考える上で、媒体として建築を考えていくという渡辺先生の話をきっかけに、後半は、そのようなテーマに沿ったこれまで渡辺先生が関わられた4つのプロジェクトの話をしていく、というものでした。
冒頭、世界的な技術進歩の出来事として、渡辺先生がいくつか取り上げた出来事とは、次のようなものです。
1930年にライト兄弟が世界で初めて飛行機を作り、その約40年後の1969年には超音速旅客機コンコルドが開発され、音速を超える世界を人類は体験することになりました。しかし、2000年の事故をきっかけにコンコルドは、空を飛ぶことはなくなりました。
1930年に当時世界で一番高層のビルであるクライスラービルディングが建ち、ひとつの到達点が見られました。しかし、9.11事件という痛ましい出来事が起こります。この事件は超高層ビルの役目の一つのピリオドとなりました。
1937年にはアメリカにフーバー・ダムという巨大ダムが建設され、都市の発展に大いに貢献したが、現代においてはもう強大なダムは建設することが事実上不可能でしょう。
など
世界でも有数の巨大建造物をどんどんつくることができたが、20世紀末から21世紀初頭にかけて一つの到達点を迎え、新たな問題に直面しています。建築も然りで、現代は環境という問題を考えなければならない時期になっている、ということを世界のビッグな歴史的事件のいくつかを取り上げることを通して講義して下さりました。
次に、「環境」というテーマにより選ばれた4つのプロジェクトを用いて講義していただきました。
●“RL”-Recycle Landscape- 千葉県あすみが丘 2002年

このプロジェクトは法政大学渡辺研究室が、2002年に首都圏の複数の建築系の大学生が集まるアートユニバーシアードに参加して行われたものです。
プロジェクトのテーマはリサイクルで、あすみが丘のプロジェクトでは、家庭から排出されるゴミをリサイクルした「その後」を見えるようにすることで、住民にリサイクル・そして環境問題を考えさせるような狙いがありました。そこで具体的に製作したものは、ペットボトルのという資源を活かし、あすみが丘の世帯数と同じ651本のペットボトルの風車で公園を埋め尽くし、子供の遊び場としました。

もうひとつ行ったことは、あすみが丘から一日に捨てられる3800本という量のペットボトルを数珠繋ぎにして束ねたボックスをつくることで、リサイクルを可視化し、認識させることを狙ったそうです。
どちらの製作物も最終的には住民に受け入れられ、渡辺先生のおっしゃるように建築(ここでは建築のエレメントなものだが)が「媒体」として利用された一成功例ではないでしょうか。
このようなプロジェクトを通して、建築が媒体として環境問題を考える契機につながることに関係する、一つの例解であるように思えました。
●“HK”-兵庫県播磨総合庁舎- 2002年

電子系の精密技術研究所がある兵庫県播磨市の山合いにある公共建築のプロジェクトです。敷地の周辺はかつて豊かな緑があったのですがが、技術研究所の開発などによって多くの木々が伐採され、環境破壊という問題がありました。そこで、市はもう一度木を植えて、将来また緑の森を復活させよう、という運動が起こりました。
“HK”は、そんな時期・場所性の中で計画されたもので、環境問題をクリアするという「ポリティカル・コレクトネス」が求められる建物でした。ここでの具体的なポリティカル・コレクトネスとは、地球全体の環境を悪化させる汚染物質の指数を、規定の時期に規定の量だけ減らさなければならない、というものであり、簡単に言うと石油を使わないで省エネを考えなさい、というものです。
そこでとられた建築的操作として、建物を低くして屋根の面積を大きくし、その屋根の全面にPVパネル(太陽光発電パネル)を取り付ける、というものでした。このPVパネルの最大の特徴は一日あたり500kwの発電量を持ち、これで全館の電気をまかなえるというものです。このような施設は日本でも有数の施設であり、そういった意味では究極の省エネであるといえるでしょう。
また、建物の内装や外装のルーバーなどに間伐材を束ねて建材とした編成材を用いました。間伐材とは、より大きな木を育てるために木に多くの光を当てなければならないが、それを遮っているために伐採される木のことであり、安価で環境的にも配慮したものです。内装に関しては、なるべく木を用いて構成されました。

プランは一階に比較的オープンなオフィス、二階に比較的人があまり来ないオフィスにし、中央のコンコースの両脇にそういった機能が入っています。
●札幌の住宅

夫婦と子供のための住宅として、冬に厳しい土地に「自然と建築をどうフィットさせるか」というテーマのもと進行したプロジェクトです。
外壁は、冬に厳しい寒さに耐える為に外側断熱をし、住宅の三方をほぼ囲んで、景色の良い一面だけを開放し、開放した面は冬はサンルーム、夏は開放すれば風が通りぬける気持ちのよい吹き抜け空間となります。冬の屋根の雪見用トップライトから階段、そしてサンルームまで風の通り道となっており、夏は住宅全体を風が通り抜けるし、冬はサンルームに設えられた床下ヒーティングによって暖房の効率を上げています。


また、視線の操作も住宅の形態に影響を及ぼし、リビングから二階の子供部屋の様子が見えたりするなど、風の通り道と視線の操作がリンクして建築が構成されているように思えました。
●“TR”-月影小学校再生計画- 新潟県旧浦川原村2001年~

最後に、広い意味での環境、ということから現在渡辺研究室が行っているプロジェクトを講義していただきました。
月影小学校が2001年に廃校し、地域の核としての施設を失ったことで、交流のできる建物が求めらました。そこで、法政大学を始めとする、首都圏四大学の建築系学生が数回にわたるワークショップによって、浦川原には何が必要か研究を調査を重ねて、最終的に地元との交流が図れるような宿泊施設をつくるということになり、2004年に着工、2005年に竣工し運営が開始されたものです。



渡辺先生は、設計の先生としてはよく我々と接しているけれども、設計者としてどのようなことを考えてデザインされているのか、今回のフォーラムでその一部でも聞くことができたのはよい機会だったと思います。
DATE : 2006年10月16日
レポート・写真撮影 W-studio T・A
写真提供 渡辺教授
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渡辺真理 (わたなべ まこと )
1950年 群馬県前橋市に生まれる
1973年 京都大学卒業
1977年 京都大学大学院修了
1979年 ハーバード大学デザイン学部大学院修了
1981年 磯崎新アトリエに勤務 ロサンジェルス現代美術館, ブルックリン美術館などを担当
1987年 設計組織ADHを設立
現在 設計組織ADH代表 /法政大学工学部建築学科教授
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以下、学生の授業レポートを載せます。
「自分のテーマ」 04D7019 円城寺 香菜
渡辺先生の講演は「環境を建築から考える」というテーマだった。しかし今回の講演を聴いて私が一番印象に残ったのは、「自分のテーマを持つ」ということである。
質疑応答のときに、環境を忘れて設計することはありえないが環境を考えたからといって必ず良い建築になるというわけではない、と渡辺先生はおっしゃっていた。『環境』は設計をする上での必要条件であるとおっしゃっていた。単に環境に良い建物というところで終わらせるのではなく、さらにその先に何か自分なりのテーマを持って設計しなければ良いものはできないということかなと私はとらえた。考えてみればそれは当たり前のことかもしれない。環境に良い建物を設計するのは、例えば建物が倒れないように構造を考えるのと同じようなもので、それを考えたから良い設計だというよりは当然考えていなければいけないことなのだろう。まずそれが基礎にありその上に自分のテーマをプラスして、それから具体例を考え面白い建築を作るのだろう。「テーマを持つ」ということは今までも様々な先生に再三言われてきたことだ。設計製図での作品にも必ず題名を付けるし、このフォーラムのレポートのように作文形式のレポートにも必ずタイトルを付ける。題名でその作品や文の印象が決まったり周りの人が興味を持ってくれるかどうかが決まったりする。がしかし、それ以前に芯となるテーマをしっかりと決めていないと自分が何をしたいかわからなくなり中途半端なことしかできなくなってしまうだろう。それどころか考えることすら嫌になってしまうかもしれない。設計者自身がしっかりとテーマを持たず何をしたいかよくわからない状態で設計したものが、周りの人に良いと思ってもらえるわけがないし何も伝わらない。まず自分なりのテーマを持つこと、それは自分自身の考えを整理することにもつながるし、その先自分が突っ走っていくための芯になる。
今回の講演で「月影の郷」の話を聴いていて、私も最初の交流センターの提案は良いと思った。村民の人に提案してみると猛烈に反対されたときいて驚いた。反対されるというのは恐らくこれが製図の課題だったら気づかないことで、実際に村民の人と話し合ったからこそ気づきそして新しい提案が出来たのだと思う。ここで大切なのは「廃校になった小学校を再生することで村のコミュニティーを復活させよう」というしっかりとしたテーマがあったことだ。「月影の郷」のワークショップの様子や実際に作っている様子などを見ていてみんながとても熱心に楽しそうに見えたのは、芯となるテーマが明確にあったからだと思った。
建築の面白いところは、設計者が決めたテーマでその後設計者以外のたくさんの人たちが関わりながら作品をつくりあげていくところだと私は思う。芸術作品は自分が思った通りに自分がやりたいように一方通行でつくりあげることが多いだろう。けれど建築は違う。前に述べたように設計者がテーマを持つことは大切だが、そのテーマを基にまるで会議を開いているかのように様々な人が意見を出し、また色々なことを調査した結果なども参考にしながら設計が進んでいく。自分の思い通りにはいかない。問題点がたくさん出てくる。しかし、最初に自分が考えたテーマを基に様々な意見が出て自分の力だけでは思いつかなかったアイディアが生まれてくる。案はどんどん進化する。それは自分にとっても周りにとってもワクワクすることだと思う。そのためにはやはり芯となるテーマが必要で、これがなければ始まらない。常に設計の始めに「自分のテーマを持つ」こと、魅力ある建築を作るためにはまず欠かせないことだ。きっと設計するワクワクは、テーマが決まってそこから始まる。
「環境をクリアする建築」 04D7102 藤本 景子
『環境と建築』との関係は常に一対となっているように感じる。今でいう『環境』は、ごみ問題や、エネルギー軽減のような言葉に結びつくことが多いが、まわりの状況全てに関係することである。建築を考える上でも、『環境』はひとつの課題であり、幅広い分野である。今回、渡辺先生のお話から興味を持ったのは、『環境=再生』もひとつの考え方であるということだ。
その例に挙げられたのが、新潟県浦川原村月影小学校の再生である。このプロジェクトは、2001年に閉校となった小学校を宿泊体験交流施設として再生させるという、4大学の学生も加わった共同研究プロジェクトである。私が面白いと思ったのは、計画から設計、施工、運営まで学生によるサポートがある点である。『セルフビルド』のように、学生の手で仕上げていく丁寧な作業は、まさしく『環境』にやさしいものだと思った。
ルーバーで覆われた施設は、夏は取り外すことで涼しく、冬は多く取り付けることであたたかくする。ルーバーから見える景色も変わり、違う表情をつける。また、フロア一つ一つもデザイン性があって、人にも自然にもあたたかいものを感じさせるものであった。全体的に『環境』を考えたすばらしいプロジェクトだと思った。
このような計画性も、まずは、『まわりの環境』から考えられているものである。何か新しいものを生み出すとき、単体で考えずに、複合的に見なければならない。周りの意見(この場合地域に住む人々の意見)というのも重要で、月影の再生プロジェクトでも地域の社会性や自然環境を大切に扱っていた。それは、『常に考えながら、常に進化しつづけること』という計画のテーマに沿ったものであった。
『月影』という素敵な名前を持つこの村の歴史がこれからもずっと続いていけばいいと思う。続かせるためには、今回参加した学生だけでなく、新しい(他大の)学生や、地域の人々がどんどん引き継いでいくことが大切になっていくだろう。新潟県に訪れたらぜひ宿泊してみたいと思った。このプロジェクトに参加しても面白いと思った。
建築を再生するということは、都市を再生することに繋がっていくことだと思う。歴史あるものに新しいものを追加させるだけでなく、既存のものに敬意を払いながら挿入させる。その場所に人が集まることで交流の場が生まれ、地域を活性化させる。このようにしながら都市をさらに良く引き立たせることが出来たとき、計画ははじめて成功するのではないか、環境という点をクリアできるのではないか、と思う。
今回のフォーラムで学んだことは、『環境を広い視野で見る』ということである。様々な環境問題をクリアすることが出来ればいいのだが、難なくクリアすることは容易ではない。その考え方は、今後の建物をつくっていく上で必須であり、難題である計画性に関連性をもたらす。私も、建築そのものや都市について考えるときには、様々な面での『環境』を念頭におきながら計画していきたいと思った。
by a-forum-hosei
| 2006-10-20 23:59
| 2006