2008年 11月 22日
第3回 稲葉裕さん |

稲葉さんはヤマギワ、LPAを経てforlightsを設立。現在照明デザイナーとして活躍しています。今回の講演では「光を操る」をテーマに様々な光について自身のプロジェクトを交えながらお話していただきました。
「人類はつい最近まで自然光で暮らしていた」という言葉から始まり、照明の歴史を簡単に説明していただきました。1940年に蛍光灯が出現するまで人類は自然光を中心とした生活をしていたのです。
次に照明デザイナーという仕事について紹介していただきました。
・照明器具をデザイン
・舞台照明をデザイン
・インテリアや建築/都市照明をデザイン
主にこのような分類がされており、建築の照明は設備設計やメーカーの担当者が行うことが多かったそうです。新宿NSビルをきっかけに建築照明という位置付けが一般化してきました。
今回のメインテーマである「光を操る」では、
反射させる・当てはめる・隠す・伸ばす・遊ぶ・散りばめる・染める・動かす等々、様々な手法が次々に登場し、その光の多様さに驚かされました。
「光を当てはめる」


光を対象とする物体に当てはめる、という手法です。
通常ならば拡散してしまう光を「いかにその大きさだけに当てはめるか」工夫を行うため、照明の位置、角度、開口部分の設計が重要となるそうです。
写真は大学のサイン計画で、下のような特殊な器具を用いることで看板に光が当てはめられています。(大学はADH設計です。)
「光に意味を持たせる」

「意味を持った光」を表現したものです。
写真は長崎県原爆死没者追悼平和祈念館で、長崎で亡くなった人の数を光で表現しています。この項目では他にニューヨーク9.11の追悼の光(まっすぐに上空に立ち上がる光)、国際フォーラム(敷地の内外の区別を光で表現)、新宿高島屋(街の行灯)などを紹介していただきました。それらの光は写真からもそのメッセージ性を感じることができ、とても説得力がありました。
最後に「自然光に学びましょう」という言葉と共に、自身が撮影した写真の数々を見せていただきました。色々な手法について話してきたけれども、やはり自然光から学ぶのが一番というメッセージでした。これは冒頭に出てきた「人類はつい最近まで自然光で暮らしていた」という言葉とも相成り、人間が自然と共にあること、人間にとって自然の美しさがいかに心地良いものであるかを再認識することになりました。
今回は照明デザインということで、建築とは少し違った観点から空間を考えることができ興味深いお話でした。
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以下、学生のレポートです。
05D7030 大山幸恵
照明と自然の関係 〜稲葉さんの講演を聴いて〜
今回の講演で考えさせられたことがふたつある。まず、光を扱うということは、形のないモノを使って形のあるものをさらに良く見せるという、脇役的な要素も含んでいることで、照明の難しさのレベルが高くなっている点である。ただ光を当てるだけでなく、必要な所に必要なだけ当てることの大切さ、主役になった時にどう表現するのかという難しさを感じた。もちろん省エネに関しては十分に考慮されなければならないし、脇役であっても主役であっても、その光の意味を伝えることは非常に困難であると思う。普段から写真を撮りためたりすることで、ご自身の感性を高めている稲葉さんならではの作品を数多く知ることで、このように感じた。
私は講演の最後の方に見せて頂いた風景写真にとても感動した。自宅のベランダに干している洗濯物を取り込む時に見えるきれいな夕焼けを、なぜ今まで写真に残しておこうとしなかったのか悔やまれるほどだ。そして、稲葉さんがおっしゃっていたように、照明について学ぶには、やはり自然の光の美しさを再認識することが重要だと思う。それと同時に、どんなに自然を感じ、学んだとしても、二度と同じ表情を見せない自然の雄大な美しさにはどうやっても勝てることは愚か、並ぶことさえできないのではないかと思える。
しかし、唯一、9・11事件でなくなってしまったNYのツインタワーを表現した2筋の青い光の写真を見た時に衝撃を感じ、涙が出そうになった。これは、人間の犯した愚かな行為があり、その上で、人間が祈りを捧げるためにつくり出されたという時間の流れがあったからであり、いきなり広場などで光の筋が現れても何も感じないであろう。
その写真から、稲葉さんがおっしゃっていた、意味を持った光が人に与える影響はとてつもなく大きなものになるのだということを理解したように思う。それゆえ、光が人に与える身体的・精神的影響を良く考えた提案をしなければならず、素晴らしい提案ができると多くの人に感動を与えることになり、その逆も容易に起きてしまう。とても繊細な感覚を要求される仕事であると感じた。
私は「光を映す」という項目で、木に様々な色の照明を当てた作品が好きだ。たくさんの葉を身にまとった大きな木が、照明によって色とりどりの花を咲かせたように見え、美しいと感じたからだ。自然の木ではあり得ないような色の組み合わせが、不気味であり、妖艶に思えた。木という、自然のつくりだした存在に、人工的な美しさが上手く加わった作品をあまり見たことがないように思う。だからこそ、印象的でもあったのだと思う。
この先どんなに科学技術が発展して、あらゆるデザイン的な分野で自由に表現できるようになったとしても、自然の美しさに勝つことはできないと思う。だが、自然が表現できないような、人間の歴史を想わせるようなことや、あり得ないようなことで、美しさやその他様々なことを伝えていくのは面白いのではないかと思う。その時に「地球があっての人間である」ということを忘れたような作品が間違ってもつくられないように、ものづくりに携わる人は、もっと自然を感じて、自然から学ぶ機会を増やしていく必要があるのではないだろうか。これが、講演を聴いて感じたもうひとつのことである。
06D7110 宮城みどり
空間の見せ方 稲葉裕さん~「For Lights」を聞いて~
今回の講演は、稲葉裕さんに照明デザインの手法などを実際の施工例を見ながらお話していただいた。光を反射させる・隠す・伸ばす・染める・動かすなどたくさんの方法について学んだ。そのなかでも「光に意味を持たせる」というお話が特に印象に残った。具体的な例では、長崎の原爆死没者追悼平和祈念館や、国際フォーラムの照明デザインである。原爆死没者追悼平和祈念館では大きな水盤に7万個のLEDを並べることで、原爆で亡くなった方の数を表している。光が広い範囲にまっすぐ並んでいる光景は原爆の被害の大きさや残酷さをわかりやすく伝えていると思った。また、小さいけれどはっきりとしたLEDの光は亡くなった方々の命の尊さを感じさせるのではないかと思う。
一方、国際フォーラムでは、光壁や光床によって領域だとか範囲を示しているそうだ。範囲を示すには、仕切りという考え方だと壁や衝立、カーテンなどいろいろ考えられるけれど、実際に物体で仕切るわけではなく光で空間をわけるというのはとても面白いと思った。
このように、空間を明るくするだけの目的ではなく、特別な意味を持った光というのはとても興味深いものだった。
また、今回の講演を聞いていて去年SDレビューの模型を手伝ったときのことを思い出した。模型作りを手伝った後、会場への搬入にも一緒に連れて行っていただいた。そのときに、プロの照明の方が出展者の方と相談しながら、どのように模型やボードを見せるかということを考えているところを間近に見ることができた。照明の方は模型の見せ所がきれいに見えるように、この角度から○個のライトで照らしましょうというようなことを話していた。そして、実際にライトを動かし角度などを調整していた。確かに照明の角度や明るさによって視線がいく場所も変わるし、影の落ち方も全然違っていた。
そこで感じたのは、特に模型を展示したり写真を撮ったりするときに影の落ち方というのはその空間の印象をかえるもので、意外と大事なことなのだと思った。このように、照明は直接ある一部分だけを照らすこともできるし、間接的にやわらかく広範囲を照らすこともできる。また、光を当てることで影をつくったり暗い場所を強調したりすることもでき、空間にとても大きな影響を与える力があるのだと思った。
今回の講演では、建築をどう設計するかということではなく、すでにできている建築や都市の空間を照明でどのように見せるかという話が聞けた。これまでほとんど知らなかった分野だったので、とても新鮮でおもしろかった。
今までは建築を見たり、美術館に行ったりしたとしても照明に注目したことはなかった。しかし、照明もいろいろ計算されて設置されているということを学んだので、これからは、そういった点にも注目したいと思った。また、稲葉さんが最後におっしゃっていたように、日ごろからいろんなことに興味を持ち自分の感性を磨いていきたいと思った。
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DATE : 2008年10月13日
レポート W-studio (テクスト:小野)
写真提供 稲葉裕
by a-forum-hosei
| 2008-11-22 00:59
| 2008