2009年 11月 16日
第6回 稲葉なおと氏 |
「そこに泊まるために旅に出る」
2009年度第6回となる建築フォーラムでは、紀行作家である稲葉なおと氏をお招きし、共通テーマである「建築的思考のあり方」の元、「そこに泊まるために旅に出る」という演目で講演していただきました。
講演は稲葉氏の現在の作家・写真家としての活動の紹介からはじまり、学生時代、設計事務所時代を振り返りながら、当時の想いや出会いからどのようにして作家の道を志し、活動を続けてこられたのかご説明いただきました。
稲葉氏は講演の冒頭で、
「オブジェクティブな考えもあるが、一番の関心は生活する場所にある。」
と語られました。生き生きした場・自由な場を求め、今もなお本当の意味でのそのような場を感じていないとおっしゃっています。だからこそ作り続けると。
そしてその設計の中ではある種の矛盾、あるいは拮抗と常に戦いながら現在に至っていると言います。その矛盾こそが本日の演目である、構成形式と現実条件でした。
*「和樂」表紙写真 雑誌を開いた写真
ここで言う構成形式とは設計の指針・コンセプトを示します。しかし建築はそれだけでは完成しないと坂本氏は本講演の中で繰り返し語られました。
「構成形式が形になる上で、半分はあてはまるが半分は当てはまらない。」
構成形式のみで作られる明確な物=形式主義は、社会の抱える問題や現実状況からズレていくと言います。構成形式と現実条件のこの2つの拮抗関係・緊張関係こそが、氏の矛盾との戦いであり、氏の設計そのものでありました。
1960~1970年当時は、空気汚染などの公害問題という社会的背景をなぞり設計をされています。それが「散田の家」に代表される「閉じた箱」という考え方でした。
そして1970年の「水無瀬の町家」を通して移り行く社会背景のもと、氏の構成形式も変化をみせることとなります。いかにして閉じた箱を開くか。その答えが1976年「代田の町家」に代表される「家型」という形式でした。
*「週間ポスト」雑誌を開いた表紙・中写真
しかし、家型という形式にこだわり続けた結果、その形式が類型化されることで構成化されてゆく現状に疑問をいだくこととなります。構成的な形式からさえも自由になれないのだろうか。
そんな思想のもと、内部と外部とが明確だった今までに対し、非常に曖昧かつ自由な空間が生み出されました。
*プロジェクトS
屋根の自由な変化によって、欲しい高さを欲しい場にもたせる。1つのまとまりとしての形がここには存在しています。
*ハウスF(1988)
家型を完全に脱し、自由な平面の広がりを見せます。
*ハウスSA(1999)
螺旋状に構成されることで、室が適度な独立性を持ちながら連続していきます。
この螺旋という形状は敷地形状や傾斜面などの諸条件が影響し合った上で構成されたものであり、螺旋と言う形を初めから目指して作られたものではないと言います。その点で家型の思想とは大きく異なるものであると坂本氏はおっしゃいました。
*江古田ハウス
そして氏の構成形式はより自由なものへと発展していきます。それはオブジェにも収まらない、枠付けもしない自由な関係性となりました。
つかずはなれずの距離で島上に分散させることで建物間には共の空間が生まれます。
住戸は交差メゾネットで構成されることで、どの住戸も東西南北4面の開口を得ることを可能にし、十字の壁構造により構造的な合理性も獲得しています。
構成形式と現実的リアリティのせめぎ合いがここには収まっています。
本講演会ではこのような一連の流れのもと、移り変わっていく現実社会とそれとのバランスを保ちながら変化していく氏の構成形式を語られました。
最後に「水無瀬の町家」に隣接した敷地に設計された別館になります。
これは水無瀬の町家が誕生してから38年後に建てられたもので、両者の構成形式は大きく異なるものとなっています。
*水無瀬の町家 ANNEX(2008)
同じ一人の建築家の作品であるのに、38年前の設計を潔く踏襲してしまっているこのワンカットは、坂本氏の建築的思考のあり方が形式主義だけにとらわれることのない、構成形式と現実条件の緊張関係にあることを実感させられる、本講演まとめの一枚となりました。
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講演日 : 2009年11月16日
レポート : W-Lab 内海
写真撮影 : W-Lab 松島
写真提供 : 稲葉なおと
2009年度第6回となる建築フォーラムでは、紀行作家である稲葉なおと氏をお招きし、共通テーマである「建築的思考のあり方」の元、「そこに泊まるために旅に出る」という演目で講演していただきました。
講演は稲葉氏の現在の作家・写真家としての活動の紹介からはじまり、学生時代、設計事務所時代を振り返りながら、当時の想いや出会いからどのようにして作家の道を志し、活動を続けてこられたのかご説明いただきました。
稲葉氏は講演の冒頭で、
「オブジェクティブな考えもあるが、一番の関心は生活する場所にある。」
と語られました。生き生きした場・自由な場を求め、今もなお本当の意味でのそのような場を感じていないとおっしゃっています。だからこそ作り続けると。
そしてその設計の中ではある種の矛盾、あるいは拮抗と常に戦いながら現在に至っていると言います。その矛盾こそが本日の演目である、構成形式と現実条件でした。
*「和樂」表紙写真 雑誌を開いた写真
ここで言う構成形式とは設計の指針・コンセプトを示します。しかし建築はそれだけでは完成しないと坂本氏は本講演の中で繰り返し語られました。
「構成形式が形になる上で、半分はあてはまるが半分は当てはまらない。」
構成形式のみで作られる明確な物=形式主義は、社会の抱える問題や現実状況からズレていくと言います。構成形式と現実条件のこの2つの拮抗関係・緊張関係こそが、氏の矛盾との戦いであり、氏の設計そのものでありました。
1960~1970年当時は、空気汚染などの公害問題という社会的背景をなぞり設計をされています。それが「散田の家」に代表される「閉じた箱」という考え方でした。
そして1970年の「水無瀬の町家」を通して移り行く社会背景のもと、氏の構成形式も変化をみせることとなります。いかにして閉じた箱を開くか。その答えが1976年「代田の町家」に代表される「家型」という形式でした。
*「週間ポスト」雑誌を開いた表紙・中写真
しかし、家型という形式にこだわり続けた結果、その形式が類型化されることで構成化されてゆく現状に疑問をいだくこととなります。構成的な形式からさえも自由になれないのだろうか。
そんな思想のもと、内部と外部とが明確だった今までに対し、非常に曖昧かつ自由な空間が生み出されました。
*プロジェクトS
屋根の自由な変化によって、欲しい高さを欲しい場にもたせる。1つのまとまりとしての形がここには存在しています。
*ハウスF(1988)
家型を完全に脱し、自由な平面の広がりを見せます。
*ハウスSA(1999)
螺旋状に構成されることで、室が適度な独立性を持ちながら連続していきます。
この螺旋という形状は敷地形状や傾斜面などの諸条件が影響し合った上で構成されたものであり、螺旋と言う形を初めから目指して作られたものではないと言います。その点で家型の思想とは大きく異なるものであると坂本氏はおっしゃいました。
*江古田ハウス
そして氏の構成形式はより自由なものへと発展していきます。それはオブジェにも収まらない、枠付けもしない自由な関係性となりました。
つかずはなれずの距離で島上に分散させることで建物間には共の空間が生まれます。
住戸は交差メゾネットで構成されることで、どの住戸も東西南北4面の開口を得ることを可能にし、十字の壁構造により構造的な合理性も獲得しています。
構成形式と現実的リアリティのせめぎ合いがここには収まっています。
本講演会ではこのような一連の流れのもと、移り変わっていく現実社会とそれとのバランスを保ちながら変化していく氏の構成形式を語られました。
最後に「水無瀬の町家」に隣接した敷地に設計された別館になります。
これは水無瀬の町家が誕生してから38年後に建てられたもので、両者の構成形式は大きく異なるものとなっています。
*水無瀬の町家 ANNEX(2008)
同じ一人の建築家の作品であるのに、38年前の設計を潔く踏襲してしまっているこのワンカットは、坂本氏の建築的思考のあり方が形式主義だけにとらわれることのない、構成形式と現実条件の緊張関係にあることを実感させられる、本講演まとめの一枚となりました。
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講演日 : 2009年11月16日
レポート : W-Lab 内海
写真撮影 : W-Lab 松島
写真提供 : 稲葉なおと
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by a-forum-hosei
| 2009-11-16 23:00
| 2009